その1 2004.3.31
最近でも花好きのおばさんからそういう言葉を聞いたことがあります。かなり野草に詳しい人でも、黄色いスミレというと、大雪山のエゾタカネスミレやジンヨウキスミレ、あるいは亜高山帯の沢沿いなどに生えるキバナノコマノツメを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
ここは、もう一つの北海道の黄色いスミレ、ちょっとマイナーなスミレ、オオバキスミレについてのホームページです。
オオバキスミレ?、そんなスミレ見たことない。という人のために、まずは北海道のどこにあるのか、分布図から描いてみることにしましょう。
オオバキスミレは道南地方や海岸に近い雪解けの早い地方などでは4月の下旬から咲き始めます。一カ所で花の見られる期間は10日から半月くらい、一番遅くに見られるのは日高山脈の高山帯で7月の下旬まででしょうか。でもまず一般的には5月から6月の初旬までに花が終わってしまうスプリング・エフェメラル(春の妖精)の仲間と言って良いのではないでしょうか。
分布図を見てください。黒丸は私自身が見た場所。白丸は文献などに情報のある場所です。各分布点は、それぞれ国土交通省国土地理院発行の二万五千分の一地形図一枚ずつに相当しています。
感想はいかがでしょうか。まず北海道の西半分に分布していて東北海道にはなさそうだなというのが、まず第一印象。次に、札幌付近や、空知・胆振・日高の平野部が大きくあいているんだね、などという印象を持たれることではないでしょうか。この分布傾向が、実際の分布と大きくかけ離れていないのなら、こういう変わった分布型にもオオバキスミレの自然史が色濃く影を落としているのかも知れません。
さー、これからみなさんと一緒にその自然史に少しでも近づけるように探索の旅に出てみましょう。
私が初めてオオバキスミレという植物に出会ったのは、1989年5月中旬のこと、41歳でした。それ以前は山の会に入っていて、けっこう熱心に活動していました。しかし会員の遭難事故をきっかけに退会。山にも行くことなく悶々と過ごしていた時期でした。でも私から山を取ったら何も残らない。一人で登れる山からぼちぼち行ってみようと思い、出かけたのが札幌から1時間半ほど日本海側を北上したところにある浜益村の黄金山でした。800mにも満たない山ですが、テレビの「日本昔話」に出てくるような突出した姿でその名を知られています。最初は山腹をトラバース気味にゆっくりと登ってゆくのですが、まだ雪が解けたばかりの感じで、ザゼンソウやミヤマスミレといった花の他は見るべきものもない。少し時期が早かったのかなーと思いつつ角を曲がって、急な坂道に出た瞬間に、陽光を浴びて一斉に私に顔を向けた黄色い群落に出会ったのです。オオバキスミレの一変種フギレオオバキスミレとの運命的な出会いでした。
山からおりても、その黄色い輝きが忘れられず、3週間後再び同じ山を登りました。山はすっかり緑に包まれ、ルンルン気分で、角を曲がって坂にさしかかりました。そこで見たものは、なんとただの平凡な緑の小道でした。もう花はすっかり終わって、わずかに残り花がちらほらするだけでした。この花を見るためには花の時期がとても大事だということを知りました。そして満足に会えなかったことが、ますます憧れを強め、とうとう10年以上この花を追いかけることになってしまいました。この10年ははたして私の人生にとって進歩であったのか、それとも「失われた10年」であったのか。このあたりで一度振り返って総括してみようと思い立ちました。
ちなみに、この黄金山にはその後新道が拓かれ、それまでの登山道はしばらく廃道化していました。新道沿いではフギレオオバキスミレを見ることが出来ませんでしたが、現在はこの旧道が再び整備されて縦走もできるようになっています。うれしいことです。
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「分布図」 右の図は今はむかし、HyperCardというソフトで自作したスミレ分布図集のなかの1枚です。地名のテキストに画面上の座標を対応させて、スクリプトによって直接地図上に黒丸を打たせたものです。たとえば文献からある山に何種類かのスミレがあるという情報を得て、データベースに入力します。そしてこの「スミレ分布図」スタックを立ち上げて、データ取り込みボタンを押すと、あとは腕組みをして見ているだけで、次々とスミレのページを開き、その山の場所に分布点を打ってゆくのです。黒丸の半径をわりと大きくとったので、重なるとちょっと醜くなったりします。それでも、全く新しい場所に分布点が打たれたりするのを見るのがうれしかった思い出があります。 元のデータベースだけでも地名をリスト表示して見ることは出来るのですが、各々の分布地点の位置関係がなかなかピンと来なかったのです。今はもうデータの更新はしていませんが、現在の新しいシステムの元でもアニメーションはちゃんと動くので、時々眺めては楽しんでいます。 今回のホームページ用の分布図も最初はこの方式を延長して作ろうと思ったのですが、良い方法が思いつかず、結局全部手作業で作ることにしました。 地図販売店で無料でもらえる日本地図センターの「建設省国土地理院発行地図一覧図」の2万5千分の1の北海道の部分ををスキャナーで読みとり、お絵かきソフトのレイヤー機能を使ってタブレットのペンで外周をなぞって北海道の形をつくりました。 分布点はスキャナーにバンドルされていたAdobe Photoshop Elementsというソフトで一つずつコピー&ペーストしました。(左の図がその「建設省国土地理院発行地図一覧図 1:25,000」の一部です) 自分がスミレを見た場所や文献などの情報をどのようにして、2万5千分の1地形図と一致させるかが一番肝心なところです。20万分の1地形図に5万分の1のメッシュ線が描かれています。2万5千分の1はその4分の1ですから上下左右でわかります。最近はこの20万分の1地形図に情報を集約しています。パソコンで分布図を描くに当たって、場所特定が不明確でなおかつ境界線付近のものは、仕方がないのでどちらか一方に分布点をつけました。分布図は分布傾向を知るためのものですからこれで良いのではないかと思っています。 |
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