その2 2004.3.31
右の図は、北海道のオオバキスミレの主な変種・品種の一覧表です。
このほかに、一二稀な品種があるようですが、私はまだ見たことがありませんので、除いてあります。
北海道のオオバキスミレ類は、二つの亜種に分けられ、さらに三つずつの変種に細分されています。そして、そのなかの二つの変種に、基本となる品種以外に変わりものの品種を一つずつ含んでいるという構成になっています。
この図を一見するとすぐに気がつかれると思いますが、例えば同じオオバキスミレという名前は種名から品種名まで各段階に四回も出てきますし、エゾキスミレも三回出てきます。ですからただオオバキスミレと言っただけではどの階層のことを言っているのか分かりません。「どこそこの山にオオバキスミレが咲いていた」と書かれた文章があっても、この8種類のどれを見たものなのか実は特定できないのです。詳しく知りたいときに、そこがちょっと困ったところではあります。逆に便利なこともあります。それは詳しくは分からないけれどオオバキスミレの類を見つけたときに、とにかく「オオバキスミレを見た」と言って間違いでないという事でしょうか。
実のところ、私がこのホームページの最初に掲げたオオバキスミレの分布図もこれら全部の種類をひっくるめた図であったわけです。もし私が見た100ヶ所以上のオオバキスミレも詳しく変種・品種に分けることが出来たなら、もっと違った情報も得られるかも知れません。まず最初の目標をそこに置いて次の一歩を踏み出してみることにしましょう。
その前に、この8種類のプロフィールを簡単に紹介します。
種としてのオオバキスミレは日本固有のスミレで、鳥取県から北海道にかけての日本海側に生育しています。いわば雪国のスミレと言えましょう。
基本品種のオオバキスミレは古くから知られ、群生するので山菜として利用されることもあったそうです。学名が最初に付けられたのは今から100年以上も前、フランシェーとサヴァティエという二人のフランス人によってでした。現在用いられている表記のような学名になったのは1916年で、名付けたのはドイツのベッカーという人です。
ミヤマキスミレはオオバキスミレの葉が3枚輪生状になる品種で、東京大学の中井猛之進博士によって、最初本州の高山帯のものに名付けられましたが、その後北海道の低地からも報告されています。変種扱いとする図鑑も多いのですが、ここでは、いがりまさし氏の「日本のスミレ」に従いました。
フチゲオオバキスミレはその名の通り、葉の縁に毛のある変種で、はじめ東北地方の太平洋沿岸から報告されましたが、その後北海道からも見いだされています。1950年岩手大学の菊地政雄教授による命名です。
フギレオオバキスミレは葉に不規則な切れ込みがある、オオバキスミレの変種で、北海道だけに生育します。フランス人のフォーリー神父が採集したものに1900年スイスの植物学者ボワジェが最初の学名を付けました。
亜種エゾキスミレは葉が厚くて細長く、3枚輪生状に着くのが特徴とされています。以下それに含まれる四つの変・品種を紹介します。いずれも北海道特産です。
基本変種エゾキスミレは植物体に毛がなく全体に紫色を帯びるのが特徴で、アポイ岳の蛇紋岩地帯など日高南部に見られます。北大の宮部金吾博士が1884年に日高地方で採集されたのが最初と言われています。
品種ケエゾキスミレは葉の縁や脈が毛深く、夕張山地から日高山脈にかけて分布しています。亜種の中では分布域もほとんど亜種全体の分布域をカバーして、数も圧倒的に多いので、基本の変・品種というとむしろこちらのほうが妥当なのだけれど、エゾキスミレの方が古くに発見され命名されたので、学名上の基本変・品種はエゾキスミレということになります。北大の舘脇操博士が1927年に日高山脈北部の札内岳で採集されたのが最初です。
トカチキスミレはケエゾキスミレの生育地の中に時々見られる葉が無毛の品種です。1961年北海道営林局の渡邊定元氏が命名しました。
フギレキスミレはフギレオオバキスミレほどではありませんが、葉に不規則な浅い欠刻のある変種で、夕張山地と日高山地の一部に見られるとされています。中井猛之進博士の命名です。
(注)一覧表の学名については、例えば基本品種オオバキスミレならば Viola brevistipulata (Franchet et Savatier) W. Becker subsp. brevistipulata var. brevistipulata f. brevistipulata と書くのが正式なのでしょうが、省略してあります。
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