その10 2004.3.31
オオバキスミレの各変種の分布図の最後はフギレキスミレです。ごらんのように、私の見たところは、夕張・芦別山地の3カ所でした。
この他には、日高山脈北部の低地にも分布するとされています。これもいまから約50年前に渡邊定元氏が見いだされたものです。何度かその付近を訪ねましたが、私はまだ見ておりません。
フギレキスミレとはどのようなスミレか、今一度おさらいしておきましょう。いがりまさし氏の「日本のスミレ」の解説を再掲させていただきます。「ケエゾキスミレの葉に不規則な切れ込みのあるもの。切れ込みの深さには変化があるが、フギレオオバキスミレよりは浅い。夕張山地ではふつうに見られ、ケエゾキスミレとの移行型も多い。」とされています。
ところが、フギレオオバキスミレは、先にも書きましたように各地でオオバキスミレとの移行型が見つかり、むしろ、切れ込みの浅いものの方が地域的広がりも大きく、一般的であることが分かってきました。
それらの切れ込みの浅いフギレオオバキスミレのいくつかとフギレキスミレの二つの産地の例をスケッチで並べて見ました。切れ込みの形や深さという点では全く区別がつかないことが分かりました。図鑑にならって切れ込みという言葉を使いましたが、フギレオオバキスミレのオオバキスミレから連続する切れ込みの変化を詳しく見てみますと、スケッチの左下にも拡大図を書きましたように、切れ込んだのではなくて、鋸歯が持ち上がり、徐々に飛び出したものと考えられるのです。少しでも受光面積を広げようとする意思の表れなのでしょうか。
フギレキスミレの他の形質の違いも見てみます。毛深さでは、各地のフギレオオバキスミレはだいたい高標高にあるものほど毛深くかつ毛の長さも長い傾向にあります。オオバキスミレは道南のものは毛が全くないか、もしくは地域的にまとまって多少毛がありますが、道北のものは、エゾキスミレのページでも少しふれましたようにほとんどのものが毛深く、毛の長さもケエゾキスミレに匹敵するようなものもあります。したがって、仮に、道南から道北へ、それから夕張山地を通って日高山脈へと向かうひらかなのへの字のような連なりを考えてみますと、おおむね毛深さは連続していて、どこかで区切るということは出来ないように見受けられます。
次に、第1葉と第2葉の間の間隔。つまり輪生の度合いですが、夕張・芦別山系のケエゾキスミレ系、つまりケエゾキスミレとフギレキスミレの第1・第2の間隔は、私の観察した限りでは、ケエゾキスミレで平均1.7mm、フギレキスミレで平均4.5mmありました。物差しをあてて目測したものですから、もとより厳密なものではありませんが、歴然とした差があることは分かります。道北のフギレオオバキスミレ、道北のフギレオオバキスミレへの移行型、道北のオオバキスミレ、日高山地のケエゾキスミレの平均値も書いてみますと、13.6mm、10.8mm、6.3mm、1.1mmとなります。結局これも連続していて、オオバキスミレとケエゾキスミレとは輪生の度合いという点では、くっきりとは分けられないことが分かります。
次は葉の形です。第1葉の長さと巾を測り、巾を長さで割って百分率を求め、さらに100を引いた数字を出しました。マイナスの数字が大きいほど、細い葉ということになります。フギレオオバキスミレは11.4、オオバキスミレからフギレオオバキスミレへの移行型 -9.0、フギレキスミレ -9.8、オオバキスミレは -20.9、ケエゾキスミレは -33.4となりました。いずれも平均値です。これもフギレキスミレと移行型とは差がありません。
葉の厚さとか硬さについても両者にはっきりした違いはないと思います。従ってオオバキスミレ類が分類された時の形態的指標をもとにする限りでは、フギレキスミレと、オオバキスミレからフギレオオバキスミレへの移行型とは区別が難しいのではないかと思われます。
群がって咲く様子。 1994.7.10 芦別山系 |
一茎二花も多い。 1994.7.10 芦別山系 |
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葉の切れ込みは浅い。 1994.7.10 芦別山系 |
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