その15 2004.4.11
北海道のオオバキスミレ類は、日本全体のオオバキスミレ類のなかでも特に変異に富んでいるといわれています。実際に自生地で花に対面するたびに、植物全体の大きさや葉の形などが少しずつ違っていて、いつも、いったいどんなオオバキスミレが現れてくれるのだろうというのが探訪の大きなたのしみでした。そこで、自生地ごとに、良く咲いているもの何本かを選んで、花や葉の数、全体の大きさや葉っぱの長さや巾などを測ってみました。 今までに測った個体の数は1000を超しました。100ケ所以上の場所なのですからいつのまにかそんな数になってしまいました。
右の写真は測るために使った道具です。メジャーは100円ショップでも売っているような安物ですが、ストッパーがついているので便利です。ルーペはいくつか持っていますが、これはゴミステーションに捨ててあった古いビデオカメラを分解して得たものです。倍率が大きく周辺部のゆがみがなくて、すっかり私の大事な物になってしまいました。
三つ目の三角形のものはなんだかおわかりでしょうか? 高校生の頃、製図に使っていたKENTのトライアングラー・スケールというもので、長さが5センチで6種類の目盛がきざんであります。そのうちの一つ、1センチを25に刻んであるものは一目盛が0.4mmになっていて、これを葉っぱに当ててルーペで覗くと目盛の半分の毛の長さも計ることができます。最近はこのスケールを出さなくとも、ルーペで覗いただけでだいたい長さが分かるようになってしまいましたけれども。
測定したデータを表計算ソフトExcel で変種ごとに表にしてみました。
下の表は「花の数」「葉の数」「植物高」の3つの指標の頻度分布をグラフに表したものです。例えば最初のエゾキスミレの「花の数」では、1花のものが4個体あり、2花のものも4個体あったということを表しています。「植物高」ではエゾキスミレは100cm以下のものはなく、100〜150cmのものが5個体、150〜200cmのものが3個体であったということを示しています。「次の級」というのは400cmを超えるものをまとめていれてあります。変種ごとにグラフが見やすいようにY軸の尺度を適度に選択してあります。
「花の数」はつぼみも合わせての数です。肉眼で数えたもので、ルーペで見なければわからないような小さなつぼみは含めていません。またすでに花が終わって花柄ごとなくなっているものは頻度分布から除いてあります。「葉の数」もやはり肉眼での判断で、葉とは言えないような小さなものは除いてあります。ですから2枚しかないようなものもまれにあります。「植物高」は地面から花の先端までの高さです。ここでも花のないものは除いてあります。ですからデータラベルの数を足し算したものが必ずしもみないっしょになるわけではありません。
「花の数」では、基本変種オオバキスミレは2花が多く次いで1花だけのものです。ケエゾキスミレは逆に1花のものが普通で2花は少なくなります。生育環境のきびしさを現わしているのでしょうか。フギレキスミレとエゾキスミレがこの傾向に準じています。成長の良いものを選ぶので花の数はちょっと多めに出るかも知れません。これら3変種に対照的なのがフギレオオバキスミレとフチゲオオバキスミレです。特にフチゲオオバキスミレでは6割近くが3花を咲かせ1花はむしろ例外です。
花は葉腋からひとつずつ出るのが基本ですから、「葉の数」でも良く似た傾向を読み取ることができます。
「植物高」も見てみます。オオバキスミレを基本としますと、エゾキスミレ・ケエゾキスミレは植物体が小さく、フギレキスミレ・フギレオオバキスミレ・フチゲオオバキスミレはより大きくなる傾向があり、一番の成長を見せるのはフギレオオバキスミレだということが分かります。
この三つのグラフを眺めていますと、やはりフチゲオオバキスミレはオオバキスミレとは相当離れた存在らしいという思いを強くします。そしてフギレオオバキスミレについても、雪解けの遅い雪田や沢頭などに進出できたことが結果的に良い生育場所を確保したことになり成長が良く葉と花の数も多くなるのではないでしょうか。葉面積が大きくなったことが効いているのだと思います。
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