その4 2004.3.31

フチゲオオバキスミレってどんな花?

 本州のフチゲオオバキスミレの分布は「岩手のスミレ」によりますと、宮城県北部から岩手県にかけての太平洋岸にその主体があって、飛んで青森県は下北半島の、津軽海峡をはさんで、北海道の亀田半島と対峙するあたりにもわずかに分布が見られるそうです。

 どうやら北海道のフチゲオオバキスミレもその分布の流れの延長線上にのみ生育しているようです。

 私の見たところは●印の9ヶ所。同じ二万五千地形図の中に2ヶ所という所もありますので、実際は全部で10地点です。

 この付近は特に、多くの先生方が地域に根を下ろして熱心に植物を研究されたところでもあり、植生についても多くの報告があります。その中には、これらの●印に隣接して、あるいはこの流れのさらに延長線上にオオバキスミレを報告されています(「北海道のオオバキスミレ分布図」参照)。これらの何カ所かはおそらく変種フチゲオオバキスミレなのだろうと思います。

 私は何度かそれらの報告の場所に行って見ましたが、残念ながら見つけることが出来ませんでした。実際、オオバキスミレ探訪といいましても、一日走り回って、あるいは歩き廻って、ひとつも見つけられないこともままあります。そのことはまた、北海道のオオバキスミレ類が全体的にはまれな植物ということの裏返しでもあると思います。

 いずれにしても、「北海道のオオバキスミレ分布図」のこれ以外の分布点ではフチゲオオバキスミレを見ていないのですから、今のところフチゲオオバキスミレの分布にははっきりした傾向があるようです。

 フチゲオオバキスミレとオオバキスミレはとても良く似ています。私が、初めて、フギレオオバキスミレではないオオバキスミレ類を見たのは白老のものでしたが、ずっとそれはオオバキスミレだと思っていました。1996年の五十嵐博氏の論文が出て初めて、あー、あれがフチゲオオバキスミレだったんだ、と認識したような具合でした。しかしそれ以後も、どうしてもフチゲオオバキスミレとオオバキスミレの違いがピンとこなくて、不遜にも、フチゲオオバキスミレなどという実態が北海道にあるのかしらなどと疑ったりもしました。

 私が、その違いに本当に気が付いたのは1998年の春のことです。道南の亀田半島のある川沿いに歩いていて、明るい、平坦な河畔林の中にオオバキスミレの一群を見つけました。写真を撮ったり、観察をしたりして、おもむろにもう少し先を探してみようと歩いていたときです。オオバキスミレの一群から50メートルほど先で、こんどは河畔から小尾根に連なる斜面でフチゲオオバキスミレを見つけてしまったのです。下の3枚の写真がその場所のものです。その後も何度かその場所に足を運び、周辺を時間をかけて調べてゆく内に徐々にその違いがはっきりと意識されるようになりました。また自分でも鉢植えなどで間近に観察してみて、これはそうとう違うものだなと認識するようになりました。

 フチゲオオバキスミレとオオバキスミレの形態的な違いについては、またページを改めて書くつもりですが、ここでは簡単にフチゲオオバキスミレという変種の特徴を書きます。

 どの生育地でもオオバキスミレのように地面が見えないほどに群生するのではなく、写真のようにぽつんぽつんと、そこにもここにもと言うように生えています。蕾は必ず紫紅色をしています。フチゲオオバキスミレ以外のどの変品種の蕾も黄色いのとは好対照をなしています。さらに菊地政雄先生が新記載の前書きで「茎や葉柄、花梗の上部に極めて細かい毛(粉状毛)のあること」がオオバキスミレと違うところだ、と書かれていますが、私の調べた10ヶ所のものについては、少なくとも花梗(花柄)の上部に必ず紛状毛があり、そして、そのような紛状毛は他のどの変品種にも決して見られないのです。家で育ててみますと、いくつかの花が咲き終わった後、次々と閉鎖花をつけて、実をつけ、やがて種を飛ばします。他の種類では私はまだ閉鎖花を見たことがありません。オオバキスミレとフチゲオオバキスミレでは根の構造も違うとされています。詳しく調べたわけではありませんが、オオバキスミレが地下茎で増えるのに対し、フチゲオオバキスミレは地下茎らしい地下茎をつけることなく太い根をいくつも出して、しっかりその地に根づいているように見えます。その比較写真が、いがりまさし「日本のスミレ」の19ページに載っております。このように閉鎖花、地下茎についても、フチゲオオバキスミレは他のどの変品種とも違う性質を持っているようなのです。オオバキスミレが沢沿いの腐蝕の多い立地に生えるのに対し、フチゲオオバキスミレは乾燥にさらされやすい斜面や稜線部などに生えています。一言で言えば、オオバキスミレは黒い土地に、フチゲオオバキスミレは茶色い土地に生えるということになりましょうか。そのせいなのかオオバキスミレの茎がなよなよした感じで、水分がなくなるとすぐくたっとなるのに対して、フチゲオオバキスミレの茎は剛直で丈夫です。

 さらに道南の亀田半島ではオオバキスミレと混生しているのに、今のところ中間型がみられませんし、本州と北海道に別れていても同じ分布パターンをとることから見て、そうとう古く(地質年代的な意味合いで)から、オオバキスミレとは別の道を歩んでいるのではないかと思われるのです。

フチゲオオバキスミレ写真館

群落の様子、群生せず点々と生える  2001.4.29 亀田半島にて

早春の野にシラネアオイと共に咲く 2001.4.29 亀田半島にて

 
 

蕾が紫紅色をしている  2001.4.29 亀田半島にて

 


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