その6 2004.3.31

それではフギレオオバキスミレはどうなってるの?

 フギレオオバキスミレは北海道生まれ、北海道育ちの道産子。私と一緒です。


 図に描きましたように、北海道の中でも、道南から道北にかけての日本海側に偏って見られます。冬の季節風が、北海道という島にぶつかって、最初に雪を降らせる、そんなところに分布しているように見えます。


 ニセコ連峰、狩場山系、暑寒別山塊などがフギレオオバキスミレの産地として有名です。雪渓が融けた跡の草地に群落を作り、時にはそれが登山道にまでこぼれて、黄色いプロムナードとなって登山者を歓迎してくれます。


 フギレオオバキスミレの分布地をもう少し詳しく見てみましょう。




分布点数 右の表は分布図の34の分布点について、その標高を調べたものです。石狩低地帯で分布が少し途切れるように見えますので、そこで南北に二つに分けてみます。一つの●でも、その中にいくつかの標高の場所を含んでいることがありますので、総計は42になっています。

 前ページのオオバキスミレの●31の分布点(35ケ所)のうち33ケ所が標高500m以下で、500m〜1000mに分布するのはわずかに2ケ所だけなのに対して、フギレオオバキスミレは半分近くが500m以上の標高の高いところに見られるのが特徴となっています。
 オオバキスミレが平地のスミレなのに対してフギレオオバキスミレは山地のスミレと言えましょう。

 ただ道南と比べると道北では低標高地に多く見られます。これは、道北にあまり高い山がないことと、道南より道北の方が気象条件がよりきびしいこと、さらに道北のフギレオオバキスミレ分布地付近はとりわけ積雪が多いことなどが相まって、オオバキスミレと同じ標高帯に見られることが多いのだろうと思います。


 次に、雪との関係を見てみましょう。
左の図はフギレオオバキスミレの分布点と積雪等深線を重ね合わせたものです。
 「北海道自然環境図譜」前田一歩園財団(1991)の中の「図 I-1-20 平均最深積雪分布図(cm)(1962-1981)元資料:日本雪氷学会北海道支部、1989「北海道の雪氷第8号」」を元にして描きました。


 フギレオオバキスミレの分布する地域は北海道全体の中でも特に積雪量の多い地域だということが分かります。多量の雪が積もるということは雪解けも又遅いということです。それだけ植物の生育に適する期間が短くなります。
 山地でも、雪が吹き溜まって遅くまで残雪の残るところや、沢沿いなどでは雪が樹木やササを寄せ付けず、草地となります。
 このようなところがフギレオオバキスミレの本拠地でありふるさとであろうと思います。

 フギレオオバキスミレはあたかも手のひらを広げたように各葉脈を扇形に開き、鋸歯もせいいっぱい張り出して、相対的にオオバキスミレより面積の大きな葉をつけます。


 フギレオオバキスミレの本拠地と言ってもフギレオオバキスミレだけが群落を作っているわけではありません。フギレオオバキスミレが終わった後にはまた別の背の高くなる植物が後に控えています。
 それらが成長して葉を展開するまでの短い期間にフギレオオバキスミレはその大きな葉に太陽の光をいっぱいに浴びて、次の年のための養分を地下茎にため込みます。また新しい地下茎も伸ばします。
 そして翌年、地表の雪が消えると同時にその豊かな水分を利用して一気に茎を伸ばし葉を広げ、花を咲かせ、実をつけます。


 オオバキスミレのままでは進出できなかった多雪の山地に、今フギレオオバキスミレは生態系の一員として生き続けています。


フギレオオバキスミレ写真館

葉が大きくて花は相対的に小さい。 2001.6.17 遊楽部山塊

道の両側を埋め尽くす群落。 2001.6.17 遊楽部山塊

 
 

蝶が吸蜜している。 2001.6.17 遊楽部山塊

 


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