その8 2004.3.31

ケエゾキスミレとの出会い

 今までに見たケエゾキスミレの分布地点を地図にプロットしてみました。16カ所の●がつきました。

 何カ所かの地点をまとめて一つの●というところもありますし、その地域にたった一カ所という所もあります。登山道脇に何度も何度も現れる所もありましたし、一カ所を探すのに何年もかかったところもあります。仕事がひけたあと真っ暗な林道をひた走り、登山口で仮眠し、翌日沢を登りつめて対面したこともありました。友人と無人の山小屋で一泊し、翌日長い長い行程を歩き続けたこともありました。それぞれの場所毎に深い思い入れがあります。

 ケエゾキスミレは北海道の背骨を形作る脊梁山地の南半分に分布しています。文献では日高山脈の主立った山のほとんどに分布しているとされています。しかし、私が実際に見た分布点の標高を表にしてみますと、必ずしもそれはいわゆる高山にばかり生育しているわけではありません。図に見られますように各標高毎にまんべんなく生育しています。日高山脈の南部では上限が低いわけですから低標高地に生育しているのは当然ですが、それ以外の地点でも、低標高地に現れています。


 夕張・日高山地の裾野は広大です。その山裾の低標高地でどのようなありようをしているのかとても興味深いものがあります。残念ながら私はまだその片鱗に触れただけです。


 これまで見たものの全体的な印象をいくつか書いてみます。

 葉は3枚のものが多く、そしてそれが輪生状になるものが多いという印象です。4枚以上のものを見つけるのは難しく、5枚ともなると稀です。
 葉は細長い傾向が強いようです。第1葉の長さに対して幅が3分の2くらいしかありません。オオバキスミレがだいたい5分の4位なので、ずいぶん細長いという印象を受けます。時に幅が長さの半分くらいしかないものもあります。しかしどういうわけか、根生葉は茎生葉より丸みを帯びるものが多いようです。

 Sketch 2 は日高山脈南部の同じ場所での茎生葉の第1葉6枚と根生葉2枚のスケッチです。それぞれ個性がありますが、全体がまとまってまた一つの個性をつくります。

 植物全体の大きさはさまざまです。気象条件、土地条件、生育環境によって変わるようです。高い山の風あたりの強い所などでは背が低く植物体も小さくなるようです。しかしそのすぐ近くでもミヤマハンノキの下などでは大きく育っていたりします。
 葉や茎は緑色です。日高山脈の北部にアポイ岳と同じ超塩基性岩の岩礫地が広がるところがあります。そこに生えるケエゾキスミレは姿かたちも小さく茎と托葉が若干紫紅色に色づいていますがエゾキスミレほどではありません。葉には肉眼で見えるほどの毛が生えています。

 時に葉の厚さが問題になることがあるのですが、調べようがないので、単なる印象に過ぎないのですが、私にはどうも、亜種ケエゾキスミレがオオバキスミレに比べて全体的に葉が厚いとは思えません。ただ、オオバキスミレの山菜的な柔らかさに比べて、中には、葉の表面に艶のあるものがあったり、葉の質が洋紙的で丈夫そうに見えたりするものも見受けます。ケエゾキスミレの葉が小さく細くなることで、質的な変化が生じているのかなと思います。

 毛と言えば、ケエゾキスミレは葉縁や脈上に毛があるのが名前の由来なのですが、分布域のあちこちで毛の少ないものが見られます。どれを見ても葉の付け根付近にちょこちょこっとしか見られないというような群落もあります。ケエゾキスミレの群落の中には、時に全く無毛のものが見られることがありますが、こういうものはトカチキスミレという品種名がつけられています。トカチキスミレでもなく、ケエゾキスミレと呼ぶのもはばかられるし、もちろんエゾキスミレでもない。こういうものも見られるのです。

 オオバキスミレ類にとって葉裏の脈上の毛というのはどうも寒さをしのぐ毛布のような役割ではないかと思われます。葉縁の毛の多少や長さもだいたい葉裏の脈上の毛と連動しているようです。同じ山では標高の高い環境の厳しい方が毛深い傾向があるようです。オオバキスミレとフギレオオバキスミレのところでその形態の連続性について書きましたが、ケエゾキスミレの毛についても似たようなことが言えます。群落としてはまとまった傾向をしめすけれど、場所毎に様々な状態が見られ、決して一様ではありません。


ケエゾキスミレ写真館

群落の様子、根生葉の方が多い。  2001.5.12 えりも町

2花つけるものもある。  2001.5.12 えりも町


薄暗いところにぽつんと生えていた。  1999.5.23 えりも町

シラネアオイとともに。 2001.5.26 日高山脈北部


マイヅルソウの葉も見えます。 2001.5.26 日高山脈北部

群落の様子。 2001.5.26 日高山脈北部の低標高




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